非認知能力とコンピテンシーが必要な場面とは?
あらゆる技術が相互に影響しあいながらアップデートしていく時代である。
先人がうまくいった方法が、今、最適な方法かどうか分からない。
多大な労力がかかったりした仕事が、アプリが一つ開発されたことで一気に自動化したりする。
知識の陳腐化が急速に進む時代の行きつく先は、あらゆる取り組みが前人未踏になる即興社会である。
この変化は、ITシステム開発分野が、ウォーターフォール型からアジャイル型へシフトしつつあるということを例にとると分かりやすい。
ウォーターフォール型とは、滝の水が上から下に落ちるように、上流工程で全体設計と計画立案を行い、下流工程でその通りに実行するという方法である。これは、前例を参考に問題定義ができ、開発を行っている間も状況が変わらないという前提の下でうまくいく。
しかし、状況の変化が速くなると、前例が参考にならなくなっていくので、問題定義をすることが難しくなってくる。そのため、問題定義を行うための調査と検討に時間がかかる。その間にも、状況は刻一刻と変化していく。何とか問題定義をすることができても、開発に長大な時間がかかる場合、出来上がったころには状況と合わなくなってしまう可能性が出てくる。これは、動的な社会状況に対して、静的な開発を行うことによって生まれる祖語である。
それに対してアジャイル開発は、とりあえず動くシステムを作り、それをクライアントと開発者とが共有して対話しながら開発を進めていく。クライアントを取り巻く状況が変化すれば、それに応じてシステムも変更していく。動的な社会状況に対して、動的な開発を行うことによって、社会状況とITシステムとが、常に重なりながら進化していくのだ。
非認知能力とコンピテンシーが必要な場面とは?
非認知能力が必要とされる場面に、最近出くわした。
現在、クラウド勤怠管理システムであるドレミングの動画マニュアル制作プロジェクトを行っているのだが、問題定義ができるまでに1カ月ほどを要した。
どのような動画マニュアルを制作すれば、ユーザーがセルフインストールできるのか?
という問いを置いたのだが、私自身はクラウド勤怠管理システムに対する知識が皆無であり、Webマニュアルとシステム本体と向き合いながら暗中模索することになった。
最初の問いは、次の2つだった。
・現在のマニュアルだけで、素人(私)がインストールできるのだろうか?
・どんなところで躓くのだろうか?
実際にシステムを触りながら悪戦苦闘してみると、躓くパターンが2つあることに気付いた。
1)労務の知識がないために躓く
2)システムの使い方が分からずに躓く
また、一般的にITシステムを会社に導入するプロセスとはどのようなものなのか?という問いが生まれ、経験者に聞いてみると、およそ3カ月ほどかけて、設定⇒教育⇒確認 のプロセスを行うということが分ってきた。
動画マニュアルにも2種類あることが見えてきた。
1)システム導入者のための設定支援の動画マニュアル
2)社員が活用するための教育用の動画マニュアル
そして、3カ月程度をかけてシステム導入するプロセスと、そこに合わせた動画マニュアルの内容のアウトラインが整理されてきた。
この段階で、テクニカルサポートの人に、実際に導入する手順をやってもらうと、より具体的な課題が明らかになってきて、制作物の解像度が高まってきた。ここまでくれば、問題定義をすることができ、チームで役割分担をして制作に移ることができる。
このプロセスを振り返りながら、頭の中には「非認知能力の重要性」という言葉が浮かんでいた。
最初は、漠然と全体的に分からない状況から始まる。私は、「まずは、システムを触りながら試行錯誤することが必要」と判断して、とにかくシステムのあちこちを動かしてみるところから始めた。そうすると、「分からなさ」を分類することができたのだ。それができれば、より具体的な問いを立てることができ、問題の解像度が高まってくる。誰にどんな質問をすれば、問題定義に近づくことができるのかを指針としながら、様々な人から情報収集をすると、少しずつ霧が晴れるように、問題の全体像と、私たちのチームがやるべきことが明確になってくる。
これらは、前例がない中で暗中模索する中から、情報を整理して問題定義をする営みである。
暗中模索力、情報の構造化力、専門外の人とのコミュニケーション力、などの非認知能力を活用して、問題定義までたどり着けたのだと感じた。
次のステップとして、今回、私が果たした役割の人、つまり、問題定義が難しい前人未踏型プロジェクト支援者を育成しようと考えたとしよう。
この時に必要となってくるのがコンピテンシーである。
暗中模索力、情報の構造化力、専門外の人とのコミュニケーション力・・・などの非認知能力に関係するコンピテンシー項目を作り、それぞれに対してルーブリック評価を設定してレベル感を自己評価できるようにする。
そして、コンピテンシー・ルーブリックを手掛かりに、トレーニングを受けている人に対してフィードバックを送っていくことで、前人未踏型プロジェクト支援者を育成するのだ。
育成した前人未踏型プロジェクト支援者には、認定バッジを付与し、マイクロ・クレデンシャルとしてブロックチェーンに登録する、という流れも、今後、広がっていきそうだ。
変化の激しい時代には、測定できる力(認知能力)の領域はAIやロボット技術によって代替されていき、その一方で、非認知能力を活用する新しい仕事が次々に定義され、その仕事についてのコンピテンシー・ルーブリックが作られ、新しい仕事に就く人たちを育成するというサイクルが、ぐるぐる回っていくだろう。
それは、大規模に体系化されたカリキュラムで学んで、学位のようなマクロ・クレデンシャルによって就職していくというウォーターフォール型の静的教育システムが機能不全化し、必要に応じて必要なことを学びながら、個人が社会とが戯れ、その痕跡がマイクロ・クレデンシャルとして残っていくというようなアジャイル型の動的教育システムへと入れ替わっていくことを意味するのだろう。
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