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研究概要

田原真人研究室は、一人ひとりが幸せになるために、自分の人生を当事者視点で研究する参加型研究プラットフォームであり、在野のオルタナティブ大学院です。

田原研究室の目的は、多様な一人ひとりが、それぞれのやり方で幸せになるために自分の人生を当事者視点で研究する参加型研究プラットフォームの基本構造を、実践を通して明らかにすることです。私たちは、参加型社会における「幸せ」を以下のように定義します。

個人のプロセスと社会のプロセスとの重なりを当事者の視点から研究して自らの存在の意味を発見し、人生の物語を立ち上げることで参加意欲や充実感を感じること。

この取り組みは、工業社会の方法論によって生じた歪みを洞察し、そこに蓄積したエネルギーを次の社会創造へと繋げる方法論を模索するものです。

参加型社会の取り組みの全体像の中では、下図の緑色で書かれている「研究会」の位置にあたります。

参加型活動のデザイン

【学術的背景と課題】

工業社会とは何だったのか? 

工業社会は、産業革命の進展とともに形成されました。この時代には、機械化や大量生産が進み、労働力の集中や都市化が進行しました。そこでは、標準化や効率化が重視されました。これにより生産性が向上し、戦後のモノ不足が改善しました。しかし、1970年代に入ってモノ不足が解消した後も、自然資本から製品を作り、それを自然界に廃棄するという工業社会の原理は作動し続け、自然環境という外部自然を破壊していきました。また、標準化や効率化という社会で一元的に定義された価値観が、人間の多様性と創造性を否定することに繋がり、人間の精神という内部自然を破壊していきました。外部に設定された枠組みにはまることで社会から受容されるという「条件付きの愛」の仕組みを使って人間を画一化して、組織や社会をアルゴリズム的にコントロールするという仕組みは、人間を機械の部品のように扱うことであり、それが徹底されるほど、内部自然の破壊も進みます。研究代表者の田原真人は、『出現する参加型社会』の中で、機械原理に基づく教育を「フォアグラ型教育」と名付けて批判しました。

フォアグラ型教育

モノづくりから金融資本主義へ 

工業社会の進展に伴い、当初はモノづくりによる経済成長が重視されましたが、近代資本主義の発展に伴い、金融資本が経済の中心に位置するようになりました。金融資本主義では、金融機関や投資家が経済活動において主導的な役割を果たし、資本の運用や利益の最大化が中心となりました。また、1990年代以降、金融が情報化、グローバル化したことで、グローバル金融や多国籍企業が登場し、社員の生活よりも、株主の利益が優先される事態が生まれてきました。経済成長という一元的な尺度で組織や社会を最適化することで、外的自然と内的自然の崩壊がさらに進みました。社会課題を解決するような試みをやろうとしても、「それは儲かるのか?」という声にかき消されていく状況は、自然資本や人間関係性資本を金融資本に転換していく動きを促進するため、社会の自己修復能力を弱めています。

フレーム内部を最適化していくことの問題点 

金融資本主義のフレームワークは、経済成長という一元的な指標を目標に掲げているため、フレーム内部の最適化が進むにつれて、個人の多様性や幸福追求の重要性が軽視されていきます。フレームの外部は無視され、意識がフレーム内部へと狭められていきます。このフレームワークを維持したまま、AIやロボットが導入されてIndustry4.0へと進むと、多くの人間は、社会から「必要がない」と位置づけられます。社会に設定された標準化フレームに適合するように生きていくことを目指し、その価値観を内面化して外部から稼働していくことを、研究代表者の田原真人は「外発エンジン」と名付けました。標準化フレームに当てはまらない自分を否定して自己否定を強めていくと、内部自然の崩壊がさらに進むでしょう。これは、人類社会の幸せのためにフレームワークを設定するのではなく、フレームワークによって人類社会が不幸になっていくという本末転倒です。

外発エンジン

金融資本主義における研究とは?

金融資本主義のフレームワークが強まるにつれて、利益を生み出す研究が重要視され、優先的に予算が振り分けられるようになってきました。国立大学の法人化によって、大学が企業などから資金を得る必要が出てくると、その傾向はさらに強まってきました。その結果、研究活動は、金融資本主義のフレームワークの中に取り込まれて、その内部で設定されている指標を最大化するための活動へと変質していったのではないでしょうか。

【当事者視点の研究の意義あるいは必要性】

フレームの内外を行き来する方法論の必要性

私たちが効果的な活動をするうえで、目的に応じたフレームを設定して扱う範囲を限定することは有効です。しかし、フレームそのものを問い直すときには、考慮に入れなかったフレーム外部の存在を思い出すことが、重要になってきます。

アインシュタインが、「問題は発生したのと同じ次元では解決できない」という言葉で表したように、フレームワークそのものが問題を作り出している場合は、フレームワーク内部で考えられた方法論を用いて問題を解決することはできません。現在、人類社会が直面しているのは、工業社会や金融資本主義のフレームワークが作り出した問題であり、このフレームワーク内部で解決できない問題です。ESG投資やSDGs活動などは、フレームワーク内部での問題解決の試みであり、根本解決には至らないでしょう。現在必要とされているのは、工業社会をアンラーニングして、次の方法論を模索する研究ではないでしょうか。そのために必要なのは、個人レベルでは、脱標準化の教育と、多様な学習者同士の相互学習であり、社会レベルでは、一人ひとりの個性が社会から歓迎され、その多様性が社会創造と幸せに繋がっていく方法論の模索だと捉えています。

参加意欲とはどのようにして引き出されるのか

私たちは、工業社会をアンラーニングした後にある、一人ひとりの想いから始まる社会を「参加型社会」と直観し、その社会における幸せを次のように定義しました。

個人のプロセスと社会のプロセスとの重なりを当事者の視点から研究して自らの存在の意味を発見し、人生の物語を立ち上げることで参加意欲や充実感を感じること。

個人は、時空間上の一点を占める存在です。個人が自分自身の存在の意味を発見するためには、自分を取り巻く空間的な広がりの中で他者や環境と相互作用して、社会の中で自分を位置づけること、また、時間的なプロセスの中で自分の生きている瞬間を捉え、時代と個人史を重ねることの両方が必要になってくるでしょう。そのためには、客観的な知識を吸収するだけでなく、当事者として、自分と社会、時代との関わりを研究する姿勢が重要です。自分が存在する意味を最大化する活動に取り組むとき、そこで発生する物語によって参加意欲や充実感を感じることができます。幸せが相対的な尺度なら、一部の幸せな人と多数の不幸せな人を生み出しますが、本研究で定義する幸せであれば、一人ひとりが、それぞれの方法で幸せになっていくことが可能です。

参加型社会とは何か?

参加型社会の萌芽は、1970年代のロックミュージックの世界的なムーブメントにあります。雑誌「ロッキング・オン」の創刊者の一人である橘川幸夫は、客観的な演奏技術をプロとして披露する音楽ではなく、言いたいことが先走って演奏技術が追い付いてくるのを待てない中で素人として活動していくところがロックの本質だと捉えました。その後、その考えをより発展させ、全面投稿雑誌『ポンプ』を創刊しました。そこでは、一人ひとりの素人が、当事者として経験したことや実感したことを投稿して共有する場が形成され、参加型社会の具体的なイメージが雑誌というメディアの中に出現しました。

研究代表者の田原真人は、細胞性粘菌の研究や、コミュニティの自己組織化運営の実践を通して、生命原理に基づく社会を構想するようになり、2022年に橘川幸夫と共に一般社団法人参加型社会学会を設立しました。橘川幸夫著『参加型社会宣言』、田原真人著『出現する参加型社会』の2冊を続けて出版し、参加型社会構想の土台を作りました。

参加型社会の本質は、自分の想いとは切り離されて、何かの代理人として発言したり振舞うことをやめて、当事者として発言したり、行動したりすることで、自分の人生と周りとの関係性を充実させていくというところにあります。大規模な組織になると、個人の意思とは関係なく組織の論理で動かなくてはならない状況が出てくるため、活動の単位をプロジェクト単位とし、音楽バンドが活動するように、社会的なプロジェクトバンド単位で活動するプロジェクトエコシステム社会を構想しています。

社会で定義された巨大プロジェクトの中の役割に自分を当てはめて社会に承認されようとするのではなく、プロジェクトバンドで自分たちの想いを募らせ、個人的な想いの根底にある普遍性に到達して社会と繋がり、個人的な活動を社会化していくのが参加型社会の方法論です。

工業社会の目標が物質的な豊かさであり、金融資本主義の目標が経済的な豊かさであったことを総括すると、次の社会の目標は、一人ひとりの幸せを実現することになるのではないでしょうか。参加型社会の方法論は、それを具体的に実現する方法論であり、前の時代の方法論を通して発生した自己疎外をリソースとして活用して、新しい社会を創造していこうという取り組みです。

自分の人生を研究する参加型研究プラットフォームのプロトタイプ

2020年のコロナ状況で、橘川幸夫はYAMI大学深呼吸学部という私塾を開き、100回を超える講義を行って、参加型社会における教育を模索しました。それに続く形で、2023年3月、田原真人は、約20名のゼミ生と共に「田原研究室」をスタートしました。これは、一人ひとりがそれぞれのやり方で幸せになるために自分の人生を当事者視点で研究する参加型研究プラットフォームのプロトタイプであり、参加型社会における教育のプロトタイプでもあります。

そこでは、一人ひとりが人生をかけて当事者として取り組んでいることを研究のテーマに選び、研究の進捗発表と議論を行っています。

工業社会の基盤にある機械原理は、システムを外部と内部に分離し、システム内部を設計に合わせる形で標準化してアルゴリズムによって作動させますが、参加型社会の方法論は、機械原理を生命原理で内包するものだと捉えています。具体的には、システムの不連続な変容を含む次のようなサイクルが、社会にも個人にも成立していると仮定しています。

システムが変容するプロセス

 

システム内部で完結することを目指すのが機械原理であり、システムの機能不全を感知し、それを問い直して新しい意味や方法論を創造し、新たなシステムへとリフレーミングしていく変容プロセスを含むのが生命原理です。変容プロセスの始まりは、システムの機能不全を認知することです。機能不全の兆候は、社会システムであれば社会課題という形で、個人システムであれば身体症状という形で現れてくることが多いです。歪みに蓄積したエネルギーを次のシステムのリソースとして活用できる文脈が立ち上がると変容が一気に進みます。変容プロセスを経験することで、存在の実体がシステム内にあるのではなく、より根源的な領域から発生していることに気づき、表層的な違いによる分断を超えていく可能性が生まれてきます。田原研究室では、多様なゼミ生による研究の実践と共有を通して、社会構造の深層や時代の精神への洞察を深め、一人ひとりが社会のプロセスと、それぞれの人生のプロセスとを重ね合わせて、当事者の視点で、それぞれの存在の意味を発見できる環境構築を模索しています。

当事者研究プラットフォームの構造

参加意欲が引き出される研究プラットフォームの要素としては、次の4つが重要だと考えています。これは、CERTフレームワーク(Collective、 Experimential、 Reflective、 Transformative)を参加型社会の文脈に合わせて置き換えたものです。

1)協働:多様な他者と共に活動することで、既存のカテゴリに所属するのではなく、他者を自分に内包していくことを学ぶ。

2)当事者視点の研究:一人ひとりの想いから始まり、自分の人生の意味を経験と実感に基づいて研究する。

3)内省:経験を通して生じる感情や気づきを手掛かりに、自分を形成しているシステム、社会を形成しているシステムをメタ認知する。

4)変容:システムの前提を問い直すことで、カオスを経由して新しいシステムが出現することを体験的に学ぶ。

参加意欲が引き出されるメカニズムとしては、以下のような仕組みを仮定しています。

参加意欲が生まれるメカニズム

自分と社会や時代との重なりを、現実レベルで捉えると、外部に設定されたカテゴリに自分をはめ込んでいくということになりがちです。田原研究室で目指しているのは、一人ひとりが自分の人生を突き動かしている起点へと遡ることで、自己組織化プロセスとして自己形成も社会形成も共に起こっているという気づきを得ることです。例えるなら、枝分かれした先端である個が、幹へと遡ることで他者や社会との繋がりを発見するというイメージです。

源と繋がる

研究プラットフォームの活動デザイン

研究を通して発見したことを以下の方法で表現し、社会や時代に参加していくことを計画しています。

1)参加型出版:当事者研究を通して発見したことを書籍にまとめ、全国にあるシェア型書店、シェア型図書館と連携して販売する。また、各地で研究発表を行う。各地のコミュニティとの交流を通して各地の当事者を触発し、当事者主体の活動を活性化していく。

2)プロダクトの制作:研究内容に応じて、ボードゲーム、音楽、など、多様な表現形態によるアウトプットになる。それぞれの表現形態に応じた展開を模索する。

3)蜃気楼大学への参加:橘川幸夫が代表理事を務める一般社団法人参加型社会学会と連携し、毎年2月に行われる参加型の教育イベント「蜃気楼大学」へ出展し、研究内容を発表する。

4)未来フェスの企画:参加型社会の方法論である未来フェスは、一人が5分ずつ、自分が体験したことや実感したことを話していく参加型のフェスである。当事者研究を通して発見したことを、未来フェスの形式に合わせて発信し、各地の当事者を触発していく。

参加メンバーとその研究分野

2023年7月現在、研究生と聴講生を合わせて約20名です。メンバーと研究テーマの一部をご紹介します。

・田原真人(社会変革ファシリテーター):参加型社会の構造と、社会変容プロセスの研究

森上博司(共創空間デザイナー):拡大再生産を追い求め続けたコンサル業界の終焉と 次の未来に新たな共創空間を生み出すプレイフルな職場環境デザインの研究

・前川珠子(働く出版企画、前過労死等防止対策推進協議会委員):「働く生きる」聞き取り調査から探る、AI時代の新しい個と社会ビジョン

・小林由季:複雑システム科学と自然主義哲学による生命原理の基礎的研究ー生命原理に基づくコミュニケーション・コミュニティ・社会のデザインのためにー

・余島純(教育コーディネーター):参加型社会における新学校の開発技法

・山口千咲:熟議型民主主義を社会実装するための研究。くじ引きで作るミニ・パブリックスでの熟議を「気候市民会議」を例に。

・成田有子(臨床心理士・公認心理師):宇宙的営業ー機械論的な世界観の中での営業から生命論的・宇宙論的なそれに移行するプロセスとは

・梅田雄基(受験マネジメントスクールBiden代表):当事者である生徒を常に中心とし、その生徒の思いや問題意識を起点にした上で、多様な社会への参加を経験しながら、その生徒の個性と幸せを育んでいく教育技法の研究と開発

山口紗矢佳(コミュニティ・フィールドワーカー)ナラティブ・アプローチによるソトヨメ研究~地方移住・三世代同居・地域コミュニティ~

・黒尾信:参加型社会に向けた公教育の移行モデルの研究

・菅 恒弘:主体的な社会参加につながる新しい社会教育に関する研究

・山本翔太:参加型社会における音楽・音楽家の在り方についての研究

・武藤優里菜:  ミッフィー・編み物・キリスト教を融合しどのように平和な世界を築くのか

田原研究室のゼミ生になるには?

次の社会を予感&直感して、そこに向けて当事者視点で研究をしていこうという想いと意志を持った方を募集します。

お申し込み時に、簡単な研究計画を提出してください。

曜日 夜の部:毎週火曜日 20:00-22:00

朝の部:毎週木曜日 AM10:00-12:00

内容 ゼミ生の研究発表、発表へのフィードバック、ディスカッション

Discordにおける非同期のコミュニケーション

Discordにおいて一人ひとりの研究ノートを用意

参加費 月額11,000円(税込)

※学生インターンと聴講生は半額。聴講生からゼミ生への移行も可能です。

※金銭的事情で学べない方は、研究室運営の仕事を手伝ってもらうことで減額措置をしますので、個別にご相談ください。

田原研究室への出願はこちらから